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今昔物語
三十
品不賤人去妻後返棲語第十一而る間男十日許有て、摂津の国より返り上て、今の妻に何しか彼の奉りし物は侍りやと打咲て雲ければ、妻遣たりし物やは有し、其れは何物ぞと雲ければ、男否や小き蛤の可咲気なるに、海松の房やかに生出たりしお、難波の浜辺にて見付て見しに、興有る物也しかば、急ぎ奉りしはと雲へば、妻更に然る物不見えず、誰お以て遣せ給ひしぞ、持来たらましかば、蛤は焼て食てまし(○○○○○○○○)、海松は酢に入れて食ましと雲ふに、男聞くに思ひに違て少し心月無き様也、〈○下略〉