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類聚名物考
飲食三
炰 つゝみやきつゝみやきといふこと、いまだしるしとするものなし、或やごとなきかたの仰せられしは、今鮒の昆布巻などいふものあり、是物にみえしつゝみやきなる中の玉章などみえしこれにやと仰られしは、いかゞにや侍らん、今思ふに、毛萇が詩の伝に、以毛曰炰とみえしによれば、獣お焼に毛おも引ず、腸おもさらずして、そのまゝ焼おいふ也、これ多く祭祀に用ひしと見えて、鬼神は人とは異にして、生贄おもそのまゝ料理せずし奉れば、ことにこれお用る歟、皇朝にては中世より獣は用ひず、魚鳥おのみ用れば、ことに片岡鮒の炰は名高きもの也、これは腸お去ず鱗おもとらで、そのまゝに焼ば、やがて包焚といふならん、昆布巻とてする物は、焼にはあらず煮物也、つねに鮒などは鱗おさり腸おも去て焼に、さもせねばこそ、中に玉章は有といふことは、唐の双鯉の腹中の尺素によせたるなり、今俗にも鮎鮒などおそのまゝ焼おば、土蔵焼といふ、至りていやしき詞なれども、つゝみやくことの意はたがはざるなり、毛詩 炰之焚之 毛萇曰、以毛曰炰、 文選〈第一〉西都賦〈班固〉然後収禽、会衆論功賜胙、陳軽騎以行炰、騰酒車以斟酌、 注張銑曰、言収所獲之禽、会師衆以論功賜胙、賜其余炰炙肉、言以騎行炙、以車載酒、