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瓦礫雑考

香物 かまぼこ 蒲焼又鰻〓のかばやきは、右の香疾(かばやき)の意なりといへる人もあれど、そは誤なり、又雍州府志の、鰻〓魚の条に、近江国雲々、其下流宇治川之所取亦美、以其形肥大称宇治丸、焼而用之、是謂樺焼、其所焼之色、紅黒而似樺皮之謂也、といへるもみだりなる億説なり、かばやきは蒲鉾の形によりて名付たる也、〈○中略〉さてかばやきの名も、蒲の穂のかたちによりたりといふ証は、大草家料理書に、宇治丸はかばやきの事、丸にあぶりて後に切なり、醤油と酒と交て付るなり、又山椒味噌つけていだしてよき也、といへるにて、その形おおもひ見るべし、昔の質素なることみなかくのごとし、〈今は田舎にてはうなぎなまずなど、みな骨ともに煮もし焼もするなり、又京師にては江戸にていはゆる長ざきにして、やきたる後に切ること常也、これも古風の存れるなるべし、おもふに万葉集に家持石麻呂贈答の歌に、うなぎのこと見えたり、そのころはいかにしてくひけんおぼ束なし、〉ある人おのが此説お難じていはく、がまの穂おかま鉾といひ、肉羹のそれにかたどりて造れるお、直にかまぼこといへれば、蒲焼も清てかまやきといふべきお、さいはざるはいかにぞや、かつかまぼこも、本はかもじ濁りていひたるなるべし、蒲は濁りてがまといへばなり、さらんにはいよゝかばやきに遠しといへり、こは蒲おがまと濁るが正しきと思へるより、かゝるひがこといふなり、凡言のはじめお濁るは古例なし、蒲もすみてかまといへるは、かまぼこ即その証なり、〈蒲原蒲生などは、今もすみていふ也、〉又かまおかばといふは、蒲の御曹子などおもふべし、この例は斑おむちとよめると同じ、かばかりのことおもしらで難じたるはおかし、