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嬉遊笑覧
十上飲食
宇治丸は鰻〓の鮓にて、古く名高きものなり、今の人うなぎに醋お忌といふは、いつの頃よりいふことゝも聞えず、調味抄鱠に用べき魚雲々、鰻やきて細く作り、蓼酢おろし大根芹うど栗生薑ぼけの酢大にいむべしとあり、唯木瓜の酢お忌お、常の酢もいむやうに誤りしなり、うなぎお焼て売家むかしは郭の内にはなかりしとぞ、新増江戸鹿子、〈寛延四年撰〉深川鰻名産なり、八幡宮門前の町にて多売雲々、池の端鰻、不忍池にて取にあらず、千住尾久の辺より取来る物お売なり、但し深川の佳味に不及といへり、此頃迄いまだ江戸前うなぎといふ名おいはず、深川には安永頃いてうやといへるが高名なり、耳袋に、浜町河岸に大黒屋といへる鰻屋の名物ありといへり、天明頃の事にや、これらや御府内にてうなぎやの初めなるべし、京師も元禄頃迄よき町にはかばやきなかりしにや、松葉端歌に、朱雀がへりの小歌に、松ばら通りのかばやきはめすまいかと卑きものにいへり、