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四条流庖丁書
一魚のひれ可参事、鯉のひれには杉さしのひれお第一賞玩に申伝、此ひれに名余多有事、なれども尊者のひれ杉さしのひれと名付たるお、当流の秘事とせり、是忝も神秘也、可秘可秘、彼ひれ盛物の上に置事大事可成、天子或京鎌倉の将軍、せめては摂政関白など迄は、同前に可盛也、ひれ一なれども、置様によりて過分ならば罰お可蒙と見えたり、口伝、何にも此ひれおば手お付て聞召さば悉参べし、不参は一向に押除て不可参、殊に盛様などお賞玩して盛て参らせば、其心得一廉有べし、何にても毎物に盛様お賞玩して参する時こそ、過分の至とは、亭主にも御礼有ことなれども、右の様に仕立お能拵て参らする人もなし、喰知人もなくして、此道徒に成行事とも可成、今の世には参物お多拵て参らすれば、それお過分とのみ心得候、然間弥道は衰果て可行哉、