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貞丈雑記
七酒盃
一今時逢萊の島台とて、洲浜の台に三の山お作り、松竹鶴亀などお作り、其の下に肴おもり置事、昔より有し事なり、これは風流の事にて、規式の事にはあらず、たゞ酒宴の興に出す也、又花鳥など作り物して盃おおく盃台も有、今の世のごとく、祝儀には必蓬萊お用ると雲法はなし、東鑑巻四十九〈正元二年〉四月三日庚子、晴、入御〈○宗尊〉于入道陸奥守亭、御息所御同車、〈○中略〉御息女御方に進風流〈造逢萊〉雲々、又鎌田草子〈に〉雲、君の是迄の御下向お一期のめんぼく、うどんげとぞんじ、当世はやるほうらいおからくみ、君おいはひ申さんため、ほうらいのしたぐみにうおとしかとの入事にて候へば、五人の子どもおば、みかはの国あすけの山へしかがりにこし候ぬ、又うつみのおきにおほあみおおろして候、一今世島台と雲ふ物、昔も有之、古は島形と雲ふ、蓬萊も島形の内なり、洲浜形〈○図略〉如此に台の板お作る、海中の島のすその海へさし出たる形、右の図の如くなるお洲浜と雲ふなり、されば島形とも洲浜がたとも雲ふ、其上に肴お盛る也、かざりには岩木花鳥などお置く也、〈○下略〉