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俗耳鼓吹
天明元年辛丑、小石川布施氏〈狂歌の名山手白人〉の宅〈江〉、洲崎望陀欄の主祝阿弥お招請、献立、〈客万年氏〉 〈祝阿弥文竿〉 予〈○太田南畝、中略、〉あくるとし壬寅正月十六日、望陀欄へ布施氏夫婦子息予招請料理付、 孟春十六日、望陀欄、 御吸物〈鯛切め 尾 はだな めうど〉 〈文台〉御硯蓋〈かやせん也 かちぐりせん也 ほだはら のり巻鮓ところ さけすし いせえび せうが〉 御小皿〈おろし大こん このわた 鮓びてうお 田作りほうづき〉 御吸物〈しほ 安こう こんぶしん 黒ぐわい ぜんまい こんぶのしんの所おたんざく切たり色白くかんぴやうにの如し〉 御膳部 御向〈たら子付 さるぼ こんぶ わさび〉 御汁〈米つみ入 かぶ からとり〉 小猪口〈いりざけ〉 御飯 御煮物〈いりとり鴨 こんにやく な〉 御焼物〈ほうろく あまだい ふきのとう〉 御湯(御手箱) 御菓子〈さらさようかん さわらび〉 御吸物〈うすみそ 馬刀 岩たけ からし〉 御肴〈漬あゆ うにとん 塩うつほせん なすび とうがらし〉 同〈こせうみそ ふか す貝 さより わけぎ〉 御鉢〈大ぶな 若大こん 山せう〉 御茶碗〈ちよ麩 りうきういも〉 御肴〈うど黒あへ 色白あへ〉 一 〈みそづけ ちよろぎ〉 一 〈塩だひ かいわり 河たけ 花がつほ〉 一 〈青す みるがひ ぼう風 ひじき くり〉 一 〈ばか いも〈いもはさといも也〉ちんぴ〉 山川酒 御吸物〈たひほね 同目 めうがたけ〉 御肴〈竹の子 白うお にしん 千匹〉 御吸物〈あかみそ もろこ たゝき大こん ねぎ〉 御夜永 御坪〈今出川 みそかけ〉 御茶わん〈いけな めし〉 椀もり〈ほう〴〵 若め〉 御香の物 御湯 御くわし 御乾肴〈あしのはがれい 長いもせん 青のり くわい こんぶ ゆば のり〉 〈〈はり〳〵とする〉味也〉此時あるじ思ひつきにて、先に布施氏にて南京の器お用ひしゆへ、器物に唐物お一つも用ひず、和物のみ也、酒闌にしてあるじ出挨拶あり、布施氏去年の調理はいかゞと問侍りければ、あるじ答て、器物といひ調味といひ、のこる所も侍らず、唯うらむらくは、一色申上たき事ありと申せしに、布施氏うなづきて、とはずやみにき、今はなき人なれば去年の暦おみ、昔時の献立紙にむかふがごとし、 予問祝阿弥以此事、祝雲、白人料理、佳則佳牟、但恨美味累々、腹中鮑満、故料理以不飽腹中不厭口中為要、