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大草殿より相伝之聞書
一初雁の料理の事、がんのかはおはぎ、かはせんろつぶのやうにきりて、塩お先いりいれたる時、酒塩にすたでおすこしくはへ、雁のかはお入、よきかげんにいる也、此ごとくする時は、うはおきすい口有まじく候、先かはいり計おいだして、二度めに雁のみおいれ、うはおきにはねぜりたるべく候、せりのきりやうは、せりのくき五分ばかり、ねのながさはいか程もあれ、有次第、ねのすえにはいさゝか手おかくべからず、それおさかいりにして、うはおきにはいれべく候、すい口にはみかんの輪ぎりにして、はじかみおよくすり、むくろうじの程に、みかんのわの上におく、其置様にくでんあり、一雁の汁仕様は、朝の客にて候はゞ、宵よりがんおきり、ひしほおしておき、その朝いかきの中に入、さて客の越られ候以前に、いかき共にすこしにてやがて取あげ、又客御入ありて、本膳すはり候て、今の雁おいれ候へば、能程にしるあるべく候、自然茶湯がたり時は、大汁にまいる事もあり、其時は能比にはろふべく候、一初雁の時、御めしの時は、右のりうりたるべく候、自然又さかなてんしんのとき、初雁いづる事あり、其時は味噌おばかつて入ず、白水と塩計にて煮候、もちろんにだしあるべく候、すい口うはおきあるまじく候、上おきにもすい口にも、ふつけ一つ入られべく候、汁のいれ物はかはらけ本にて候へども、時によりては、茶わんも大ざらなども、くるしかるまじく候、