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古今著聞書
十八飲食
滋井入道〈○藤原実教〉宰相中将にて侍ける時、梶井宮にまいりけるに盃酌有けり、終座に成て宰相中将、今は柚まいらばやと侍ければ、すなはち参らせたりけり、或上達部〈経家卿と雲々〉柚八柑七とこと葉おつがひて、八にきりたりけるお、宰相中将見て、あしく切つる物かなと思ひて、ともかくもいふことなかりけり、宮も御覧じて、何とも仰られざりけり、とばかり有て行算(○○)まいれやと仰られければ、等身衣にかりばかま著たるさぶらい法師の、みめよくつき〴〵しげなるまいりたり、その柚きりてまいらせよと仰られければ、こしより包丁刀おぬきたりけり、まづ興有てぞ見へける、ぞんずる所きりてまいらせたりければ、宮以下入興有けり、くだんの行算さえもんばうは、行孝が弟也けり、其げい舎兄にもはぢざりけるとぞ、柚おば三切にぞ切たる、およそ柚おきることは、盃酌至極の時の肴物也、盃お取人必ず三度呑事にて侍とや、