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徒然草

園の別当入道(○○○○○○)〈○藤原基氏〉はさうなき庖丁者也、或人のもとにていみじき鯉おいだしたりければ、皆人別当入道の庖丁おみばやとおもへども、たやすくうち出んもいかゞとためらひけるお、別当入道さる人にて、此程百日の鯉おきり侍るお、今日かき侍るべきにあらず、まげて申請んとてきられける、いみじくつき〴〵しく興有て、人ども思へりけると、ある人北山太政入道殿〈○藤原公経〉にかたり申されたりければ、かやうの事おのれはよにうるさく覚ゆるなり、きりぬべき人なくばたべ、きらんといひたらんはなほよかりなん、何条百日の鯉おきらんぞとの給ひたりし、おかしくおぼえしと、人のかたり給ひけるいとおかし、