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続視聴草
八集三
庖丁上覧家康公或とき御船にて被為成、御船中御目通りにて御台所方天野五郎太夫(○○○○○○)活鯉お料理庖丁仕候とき、鯉はね上り船外へ飛出候お、五郎太夫さわがず左の手に持候魚箸にて挟とり候、本多佐渡守扠も仕たりと誉て、御前にも御感被遊候半と存じけるに、御不興にていかひわたけものと上意なり、佐渡守一円了得不仕打過たり、其後或時佐渡守御前に罷出候節、吾は秀忠へ恩お成すと上意なり、時に佐渡守承り仰までもなく、天下お御譲り被遊候上は、是に過たる事何か可有御座と申上る、いや〳〵天下は元より秀忠のものに定りたれば、恩といふにはあらず、総て古より大底に親増ても、外からは左に不思、まして少し劣りたるおば、大に劣りたる様に思ひなすものなり、万事我だけ一はひに働ひて、子の事お思はぬはたはけ者也と上意有、そこで佐渡守先年の天野が事不審晴たりとなり、