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嬉遊笑覧
十上飲食
かひしき、くだものいそぎ、源氏物語あづまや、尼君のかたよりくだものまいれり、筥のふたに紅葉つたなどおりしきて、ゆえなからずとりまぜてしきたる紙に、ふつゝかに書たるもの、くまなき月にふとみゆれば、めとゞめ給ふほどに、くだものいそぎにぞ見えける、此は薫が弁の方よりの歌に目おとむれば、菓に心の移るやと見ゆると、草子の地のたはぶれながら、此俗諺ありしなるべし、又あげ巻に、あじろのひおも心よせ奉りて、色々の木の葉にかきまぜもてあそぶ雲々、是もかひしきなり、調味故実しぎの別足お包むことの処、下はおしきなり、つゝみたるはこうばいだんし、かいしきの葉はなんてんちく(○○○○○○)也雲々、ふるくより南天は難転の名詮にて、鏡の背のもやうに付、又手水鉢の傍に植る、〈甲陽軍艦〈九〉勝時お行ふ処に、なんてんの御水入と有などによる歟、〉一代女〈四〉泉州堺の処に、湊の藤見に、大重箱に南天お敷て、赤飯山の様にして行ます、〈○中略〉庖丁聞書、改敷品々の事、〈○中略〉あり、何によりて箇様に定めたる歟覚束なし、口伝と雲る年葉は鳥柴成べし、調味故実に見ゆ、木は何にても鳥お付たる木お雲にや、饅頭のかひしきは前にいへり、改鋪といふも仮字書なるべし、古くかいのかなお用ふれど誤なるべし、かひにて飼と同意、物のあはひに挿むおかひ物といふ是なり、くわへさすることなり、