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飯は、いひ、又はめしと雲ひ、字音にはんとも雲ふ、又高貴の人に対しては、おもの、供御(ぐご)、御台(おだい)、御料(ごれう)など称せり我邦古来穀食お常とす、即ち飯と雲ふは、本と穀物お炊ぎたるものヽ総称なれども、単に飯と称するときは、概ね米飯に限れり、而して其色の白きお以て俗に白飯とも称し、麦、粟、稗等にて炊ぎたるお特に麦飯、粟飯、稗飯などヽ雲へり、蓋し今麦飯、粟飯、稗飯など称するは、多くは米に、麦、粟、稗等お加へたるお雲ふなり、抑、米飯は米お甑にて蒸し熟せしむるお以て本とす、即ち強飯是なり、糄〓は、ひめと雲ふ、原と軟弱の意にて、甑蒸せし強飯に対する称なり、今一般に炊ぐ所の飯即ち是なりと雲ふ、此炊法に焼乾(たきぼし)、湯取(ゆとり)、二度飯等の法あり、水飯は、夏季飯お冷水に漬け、或は乾飯お湯又は水に浸し、和げて食するお雲ふ、飯お湯漬にすることは古くより有り、湯漬は強飯お用いず、常の飯お用いしなるべし、足利幕府時代には、酒宴の後には多く湯漬お用いるお例とし、之お食するに法式ありき、〓はしるかけ飯にて、即ち羹お以て飯に澆ぐお雲ふ、麦、黍、粟、稗等の穀物の外に、猶ほ種々の物お米に和して、炊ぐことあり、謂ゆる小豆飯、芳飯、骨董飯、魚飯、鳥飯、菜蔬飯等と称するもの即ち是なり、生飯は、さばと訓じ、散飯、三飯、三把、早飯など書けり、もと仏家より出たることにて、食前に少量の飯お取分けて、別器に置くお雲ふ、是神仏に供する意なりと雲へり、屯食はとんじきと訓じ、吉凶等の事ある時、下仕の者に賜ふ食にて、今の握飯の類なり、埦飯の事は、礼式部饗礼篇に附載せり、宜しく参看すべし、