[p.0346]
飯粥考
飯は炊穀の名、粥は享穀の名なり、加之久は炊爨の字およみて、俗に布加須といふこれなり、蒸は湯気お洩さぬにいひ、炊は湯気お洩すにいへばおなじからず、甑(こしき)は炊籠(かしきこ)お転約し語、いにしへは籠お用ひ、又は瓦器、木器おも用ひしなり、〈甑、〓、などの字お書るにてもおもふべし、〉それに木葉藁などお敷もし掩もして炊たれば、柏(かしは)〈かしきばのきお省ける語なり〉甑帯(こしきわら)〈新撰字鏡に、〓荘楊反炊飯之具、己志支和良雲々、和名抄に、本草雲、甑帯、和名古之岐和良、弁色立成雲、炊単、和名同上など見ゆ、〉などの名あり、延喜大炊式には、櫓(こしき)三口、〈高各三尺、口径三尺、有蓋、〉輿籠五脚、置簀六枚と見えたれば、柏の代に簀お用るも、はやくよりのわざなり、煮は水あるにいひ、熬は水なきにいふなるお、新撰字鏡に熬煎也、煎魚鳥等是也、爾留又伊留とあるによりて、一事とおもひ混べからず、然れば飯類と粥類とは、炊、享の差別ありて、まぎるゝことなきお、後世はまどへる也、さて飯に強食あり糄〓(ひめいひ)あり、強食は和名抄に、〈〇中略〉強飯、和名古八伊比と見えて、上古の常食なり、