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類聚名物考
飲食二
かゆ こは飯 ひめ宗固問、物語に御かゆこは飯と有は、僧家の粥飯に同じことかと被存候、右かゆ飯の外、ひめといふもの見え申候、今もひめのりと申事下々申候、こは飯は今雲つねの飯、ひめはかゆと飯との間に候哉承度存候、胤相答、来喩之趣も御猶には奉存候へども、強飯とつねの飯とは別なるべきか、見分之旨左に記、御厨所預前若狭守宗直説雲、飯と雲は強飯にて〓お以て炊きたるおいふ、今に到て御節会の御膳、又は大床子御膳等、総而御飯とて、式正に献る御飯は皆強飯也、内膳司の所掌也、〈○中略〉比目といふは、今の常の飯なり、正月比目始といふも、常の飯お喰初る義也、強飯お喰べきお褻(け)の義おなし初る故に別に断るなりと雲々、〈○中略〉又延喜大炊式雲、凡供御稲米粟米舂備日別送内膳司と見え、又雲、供御料稲粟並用官田、其舂得米一束二把五升、糯米亦同、一人日舂三升、是等の文、当時平日供御も強飯たるべき歟、勿論褻には常の飯も献ずる事に可有之相聞え候、稲米は常の米、粟米は餅米の事と相聞え候、文字の事には難当候へども、賦役令以下の取扱、如此分別いたし来ざる事に相見え申候、比目は和名抄糄〓の字お用候へば、粥と飯との間との説も面白存候、猶ほ考べし、俊明案るに、高橋家の説いはれ有に似たり、されども少たらざる所有、まづ飯は今の常の飯にて粳也、これは蒸もたきほしにもすべきなり、〈○中略〉強飯〈こはいひ、〉糄〓〈ひめ、〉粥〈かゆ、〉この三の物、そのわかちあれども、つねにはわきまふる事まれなり、まづ強飯は誰もしる所にて、今世に俗にもいへり、小豆お入しおば赤飯(せきはん)と雲、京江戸ともに音語お用い、あづき飯といへば、粳にて焚ほしにせし常のめし也、糄〓おば是おひめと雲、此事知人まれ也、和名抄に糄〓は和名比女といへり、或説雲、非米非粥之義也と見ゆれば、米と粥との間といふ意にて、今常に用るめし也、但し是は強飯と比女とは強弱のたがひのみにして、焚乾(たきほし)も蒸たるもその事は同じ、〈○中略〉粳〈うるしよね〉糯〈もちよね〉は各その品によりて用いてこれにかゝはらず、粥は是もまた二つ有て、かたがゆ、〈○註略〉ともに饘字およみ、〈○中略〉饘は即ち又比目と同物にして、今雲焚乾(ほし)のめし也、たゞわかちていはゞ、比女は蒸たるめし、饘はたきほしのめし也、この三のわかち、甚だ入くみて心得たがふこと多し、〈○下略〉