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飯粥考
強食は、〈○中略〉古事記〈仲哀の段〉に以飯粒(いひぼ)為餌、釣其河之年(あゆ)魚雲々、神功紀に、勾針為句(まげてはりおちに)取粒為餌雲々、〈これらも、強飯の飯粒なるべし、〉仁徳紀〈四年の条〉に、炊烟(いひかしぐけぶり)、亦繁雲々、万葉集〈二の巻〉に家有者(いへにあれば)、笥爾盛飯乎(けにもるいひお)、草枕(くさまくら)、旅爾之有者(たびにしあれば)、椎之葉爾盛(しひのはにもる)また〈五の巻〉可麻度柔播(かまどには)、火気布伎多氐受(けふりふきたてず)、許之伎爾波(こしきには)、久毛能須可伎氐(くものすかきて)、飯炊(いひかしぐ)、事毛和須礼提(こともわすれて)、雲々、伊勢物語に、手づからいひがひとりて、けこのうつはものにもりけるお見て雲々、などあるによりて、その甑にて炊たる強飯お笥子〈椀飯とは別にて、笥子にもれるにても、強食のさまおもふべし、〉に盛て喰しことおもふべし、延喜大炊式に、宴会雑給飯器、参議已上並朱漆椀、五位以上葉椀、命婦三位以上藺笥(いけ)、〈加筥〉五位以上命婦並陶椀、〈加盤〉大歌、立歌、国栖、笛工、並葉椀〈五月五日青柏、七月廿五日荷葉、余節干柏、〉と見えて、此比より椀にも笥にも葉にも盛ことゝなり、今の世はわづかに魂祭に荷葉椀お用るわざ残れり、日本紀竟宴歌〈○註略〉に、玉がしはおかたまの木のかゞみ葉に神のひもろぎそなへつるかな、〈○註略〉とよめるも、葉椀にて強飯のさましるし、大床子の御膳も強食にて、すべて吉凶式正の礼に、必強食お用るは、古風の今に伝はれる也、