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古今著聞集
十相撲強力
佐伯氏長はじめて相撲の節にめされて、越前の国よりのぼりけるとき、近江国高島郡石橋お過侍けるに、きよげ成女の川の水おくみて、みづからいたゞきて行女有けり、〈○中略〉女うなづきて、あぶなき事にこそ侍なれ、王城はひろければ、世にすぐれたらん大力も侍らん、〈○中略〉彼節の期日はるかならば、援に三七日逗留し給へ、其程にちととりかひ奉らんといへば日数も有けり、くるしからじと思ひて、心のとゞまるまゝに、いふにしたがひてとゞまりにけり、其夜よりこはき飯(○○○○)お多くしてくはせけり、女みづから其飯おにぎりてくはするに、少もくいわられざりけり、始の七日はすぎて、えくひわらざりけるが、次の七日よりは、やう〳〵くいわられけり、第三七日よりぞうるはしうはくひける、かく三七日が間よくいたはりやしなひて、今はとくのぼり給へ、此上はさりともとこそ覚ゆれといひてのぼせけり、いとめづらかなる事なりし、