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古今著聞集
十五宿執
孝道朝臣わかかりける時、さして其病と雲事なきに、なやみて日数お送りける、次第に大事に成て、飲食も不通して、存命あぶなく見へければ、妙音院殿〈○藤原師長〉大におどろかせ給て、かの病席におはしまして、所労のやうくはしく御尋有ければ、孝道たすけおこされて申けるは、さして痛所も候はず、又くるしき事も候はず、いかにと候哉覧、物のたべられ候はで、日数つもり候ぬる間、無力にて気よはく覚候也と申ければ、おとゞよく〳〵御覧じて、女は実の病にてはなかりけり、さだすけが啄木おやむ也、其儀ならば〓に物くへ、さだすけには、やくそくしたれども、経信の流の啄木お教へんずる也、それは女うれへおもふべからず、我見ん前にて物くへ、見て心安く思はんとせめさせ給て、飯お水づけ(○○○)にして、すゝめさせ給に、かひ〳〵敷くいてけり、さればこそとて御心安なりてかへらせ給けり、