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礼容筆粋

湯漬之事ゆづけ品々ありて、故実むづかしきよしに候、先大様は食お湯にてあらい、椀にもり出す也、扠箸お取、中お少くつろげ、湯お七八分にうけ、下に置、喰べし菜は香物よりくひ初る也、汁はすはずして躬計おくふべし、再進おかへず、跡に湯お呑候時、はしおそへず、かうの物おくわず、ずいぶんはしのよごれざるやうにすべし、兵庫湯漬之事始のごとく湯おうけて喰べし、たとへば精進にても、膾などお喰ては、水にて箸おすゝぐなり、汁のみは喰とも汁は吸べからず、菜は大かた精進物お本座にすゆべし、本座とは左中右の事也、当礼ははじめに湯漬にて出し、頓而めしつぎお出す事、是等の義は日お重るの振舞なり、〈○図略〉西国湯漬之事西国湯漬は、飯の上お平かにして、胡桃の実にて食の上にすはまおつくる、其ふちに黒ごま、芥子およくいりて置也、扠湯おけしのうかぬ程につぐ也、昼以前はけし、昼以後はごまの方に湯おつぐなり、〈○図略〉二はい湯漬之事上戸は汁椀のお二箸のみ喰、下戸は湯お待て先食椀のお喰、其後汁椀のお喰てよろし、食椀へ再進出たり共、二杯ながら食はずは、うくる事あるべからず、