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大鏡

法成寺の五大堂供養、しはすには侍らずやな、きはめてさむかりしころ、百僧なりしかば、御堂のきたの廂にこそは、題名僧の座はせられたりしか、そのれうにその堂の庇はいれられたるなり、わざとの僧膳はせさせ給はで、ゆづけ計たぶ、行事二人に五十人づゝわかたせ給ひて、僧座せられたる、御堂の南おもてに、かなえおたてゝゆおたぎらかしつゝ、おものおいれていみじうあつくてまいらせわたしたるお、ぬるくこそはあらめと僧達思ひて、ざふ〳〵とまいりたるぞ、はしたなききはにあづかりければ、北風はいとつめたきに、さばかりにはあらで、いとよくまいりたる御房たちも、いまはさうしけり、後に北むきの座にて、いかにさむかりけんなど、とのゝとはせ給ひければ、しか〴〵候しかば、こよなくあたゝかにて、さむさもわすれ侍りきと申されければ、行事たちおいとよしとおぼしめしたりけり、ぬるくてまいりたりと、別の勘当などあるべきにはあらねど、殿おはじめたてまつりて、人にほめられ、ゆくすえにもさこそありけれと、いはれたまはんは、たゞなるよりはあしからず、よき事ぞかし、