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甲子夜話
二十七
寝惚先生〈○太田蕈〉は明和の頃より、名高く世にもてはやされしこと言に及ばず、〈○中略〉今茲癸未の四月三日、劇場にその妾お伴ひゆきたる折から、尾上菊五郎と雲る役者、寝惚が安否お問来れるに、〈○中略〉これより夜帰り常の如く快語してありしに、翌四日は気宇常ならずと雲しが又快よくひらめと雲魚にて茶漬飯お食し、即事お口号し、片紙に書す、酔生将夢死 七十五居諸 有酒市脯近 盤餐比目魚是より越て六日熟睡して起ず、その午時に奄然として楽郊に帰せりと聞く、この人一時狂詩歌の仙なり、