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日用助食竈の賑ひ
麦飯焚やう先搗たる精麦お水にてよく洗ひ、釜に水お程よくいれて焚べし、猶飯お焚ごとく大火にたくにおよばず、煮たる時分〓(ざる)に打明、水おかけ手にてかき廻し、又水おかけてはかき廻し〳〵して、よくぬまりの取れるやう洗ひて、扠米お常飯の如き水加減にして、其上に右洗ひたる麦おいれよくならして焚べし、扠焚あげて木お引、燠も引て煙草三四ふくのむ間過て、たきつけやうのもの、也屑又杉の葉、藁様のものおばつと燃べし、左すれば焼あげたる飯に〓(ねばり)気なくして宜し、是麦飯の秘伝なり、又ざつとよまし、米とかきまぜ焚べし、又前日昼頃より麦お浸し置、翌朝米にかきまぜ焚ば大徳用也、又焚やうとろゝ汁、醤油、すましのかけ汁等にて食するには、右焚様と同じく米の洗ひたると、焚たる麦の洗ひたるお釜にいれ、右焚様より一倍も水お沢山入て焚、吹上りたる時、右釜の真中に飯お押分、温飩蕎麦切おあたゝむる竹かごお押込ば、その籠の中に湯ばかり溜るお小杓おもてくみとり尽し、籠お引とり、元の如く杓子にてならし、蓋おして細火にて焚あげ、暫むし置、飯櫃にうつすべし、此吹あがりたる時、火は半分に減じたくべし、この湯お取尽したる時、薪はちろ〳〵に燃し、すぐに引尽し、燠ばかりにして暫くむし置也、又右のごとく湯はくみ取事なれば、常たく水かげんより倍入てよろし、扠箇様にして焚たる飯は、至てかろく少しもねばり気なければ、かけ汁又はとろゝにて食するは妙々なり、