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古今著聞集
十六興言利口
妙音院入道殿〈○藤原師長〉仰らるべき事有て、孝道朝臣のわかゝりける時、けふたがはで祗候すべきよし仰ふくめられたりけるに、孝道仰お承ながらうせにけり、ひめもすあそびありきて、夕部に帰り参じたりければ、入道殿大きにいからせ給ひて、御勘発のあまりに、贄殿の別当なりける侍お召て、麦飯に鰯あはせにて、隻今調進すべきよし仰られければ、則参らせたりけるに、孝道にくはせられけり、日暮し遊びこうじて、物之ほしかりける時にて、かひ〴〵敷皆くいてげり、其時いよ〳〵しかり給ひて、三千三百三十三度の拝おせよと仰られければ、孝道本よりすぐよか成者にて侍うへに、隻今物よくくいて力も有て、顔こえけるまゝに、いとやすやすとしはてにけり、其時入道殿、かしらがきおせさせ給ひて、やすからぬものかな、法師はしなばやと仰られたりける、上臘しかりける御かん当なりかし、此飯菜おうとましき事に思召取たる事は、御遠行の時しろしめしたりけるとかや、さなくては、誠にいかでさる物あり共しろしめすべき、