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嬉遊笑覧
十上飲食
手打そば、予が幼きころ母の唄ひて聞かせられし小歌の節、今おもへば難波十日夷の売物の歌に擬したるものなり、唱歌は赤いもの尽、甘いもの尽、色々あり、うまいものにとりては、たうこうあんそばきり、西の宮太郎が麦飯(○○○○○○○○)、上林、みな同時行はれたる食ものどもなり、太郎は葛西太郎と称せられぬ、中ごろすたれて、武蔵屋権三のみ流行て、太郎は無かりしが、又近年再興したり、〈(中略)或人雲、太郎はもと村中の番人にて、堤下に居て鯉魚お売しが、頓てそれお煮て麦飯に添へてあきなへり、江戸にていふ番太郎これなり、〉