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今昔物語
十二
神名叡実持経者語第卅五今昔、京の西に、神明と雲ふ山寺有り、其に叡実と雲ふ僧住けり、〈○中略〉土御門の馬出に薦一枚お引廻して病人臥せり、〈○中略〉聖人事しも、我が父母などの病まむお歎かむが如く歎き悲て雲く、物は不被食か、何か欲しきと、病人の雲はく、飯お魚お以て食て、湯なむ欲き、然れども令食る人の無き也と、聖人此れお聞て、忽に下に著たる帷お脱て、童子に与へて町に魚お買に遣つ、亦知たる人の許に飯一盛、湯一提お乞に遣りつ、暫許有て外居に飯一盛、指入の坏具して、提に湯など入れて持来ぬ、亦魚買に遣つる童も、干たる鯛お買て持来ぬ、其れお自ら小さく繕て、飯お箸お以て含めつつ、湯お以て令漉れば、欲しと思ければ、病人にも不似、糸吉く食つ、残れるおば折櫃に入れて、坏の有るに湯は入れて、枕上に取り置て、提は返し遣りつ、〈○下略〉