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安斎随筆
前編十五
一生飯 生飯或俗に散飯と書く、是おさばと雲也、飯お器に盛たる上に小く丸めて上に置お雲也、是仏家にてする事也、僧徒の飯お食する時、此生飯お取て別器に置て、呪文お唱て訶利帝〈天竺にて食物お作始めたる人とかや雲〉に供へ祭る、是仏家の習俗也、然るに吾朝廷御飯に生飯お置く事あり、是代々天子仏法お崇敬し玉ふ故、仏家の習俗の移りたる也、〈生飯の事、禁秘抄に見えたり、〉又神供の御飯にも生飯お置事あり、是も行基、弘法、伝教、慈覚、智証等の僧本地垂跡の説お造り出してより、神仏混雑する事盛に行はるゝ故、仏家の習俗いつとなく神社へも移りたる也、〈斎宮神供生飯の事、左経記に見えたり〉