古今著聞集

十六興言利口

此比ぶさたの知了房といふもの有ける、能書にてなん侍ける、ある人古今お書うつしてたべとてあつらへたりけるお、受取ながらおほかたかゝざりければ、主しかねて、今はたゞかゝずともかへし給ふべしといひければ、智了房こたへけるは、過にし此痢病おつかうまつりしに、紙おほく入候にしに術つきて、さりとてはとて、その古今の料紙おみなもちいて候也といひければ、ぬしいふばかりなくおぼへて、料紙こそさやうにもし給ひたらめ、本は候はん、それお返し給らんといへば、智了房其事に候、其本おも紙みそうづにみなつかうまつりて候おば、いかゞし候べきといへりけり、〈○下略〉