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嬉遊笑覧
十上飲食
軽口男といふ草子、浅草旅籠町の処、弓手も馬手もそば切屋、一杯六文かけねなし、むしそば切の根本と、声々に呼、〈鹿子ばなしに、諏訪町あたりにて、蒸籠むしそば切一膳七文とよびける、其絵おみるに、棚のうへに、大平の椀にもりて并べたり、軽口男は、貞享中の草子、またこれは元禄三年の草子にて、其間程近けれど価異なり、又完文八年のころの物といふ、流行物の短歌には、八文もりのけんどんやとあれば、前後あはず、さま〴〵にてありしにや、○中略〉延享二年草子、賢女心籹、しだらく女おいふ処、集せんだし廿四文のそば切、小半酒お小宿のかゝまじりに呑てしまひ、酔にまかせて、うどんやのけんどん箱お枕にして昼寐、これにても其価知べし、