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太閤記

惟任坂本お心ざし勝竜寺より落行事或曰、〈○中略〉日向守〈○明智光秀〉淀より戦場へおもむき行に、京都におひて、つね〴〵恩賞有し者共、粽やうの物などさゝげ、門出祝せんとて参じけるに、鳥羽に至て行向ひしが、光秀軍勢のそろひかねぬるお待て、秋の山に在しなり、かゝる所へ京童粽おさゝげ、今日の御合戦大利お得給ふやうにと祝しければ、〈○中略〉粽お取てむきもし侍らで食したり、京童是お見て、此軍はか〴〵しき事よもあらじ、軍の前に大将度にまよふは、亡兆なるよし聞伝へり、たゞいそぎかへるにしくはなしとて、あしばやに帰京したりけり、