[p.0565][p.0566]
塵袋
九飲食
年始には人ごと餅お賞玩するは、何の心かある、餅は福のものなれば祝に用ふる歟、昔豊後国球珠郡にひろき野のある所に、大分郡にすむ人、その野にきたりて、家つくり田つくりてすみけり、ありつきて家とみ、たのしかりけり、酒のみあそびけるに、とりあへず弓おいけるに、まとのなかりけるにや、餅おくヽりて的にしていけるほどに、その餅白き鳥になりてとびさりにけり、それより後ち次第におとろへて、まどひうせにけり、〈○中略〉と雲へる事あり、餅は福の源なれば福神さりにける故に、おとろへけるにこそ、福の体なれば年始にもてなすべし、二人むかひて、餅おひきわるおば、福引と雲いならはせるも、ゆへなきに非る歟、又内裏には餅の名お福生菓と雲ると雲へり、