[p.0567][p.0568]
鶉衣

餅辞君見ずや、餅は例のおかしみありて、しかも四時の流行あり、まづは一とせの初空、松も竹もあらたまるあしたに、飯はもとより常住にして、なら茶麺類もしどけなければ、雑煮(○○)と趣向お定めたるぞ、神代の骨折のところなるべし、それより具足(○○)、かゞみひらき餅(○○○○○○○)に、睦月の寒さもくれて、二月は彼岸の団子(○○○○○)おぞ花よりとよみし人もありしお、草餅(○○)の節供に桃もちりて、つゝじ山吹とふけ行まゝに、まんぢう売の声もねぶたく、空は蛙に黒みお呼れて、春雨つれ〴〵とふり出る比は、かきもち(○○○○)のいじり焼にぞ、かの右馬頭が夜咄もしみつべけれ、卯月は例の卯花ぐもりに、蚊屋の香もめづらしく、やぶ蚊も軒にもちつく比は、牡丹餅(○○○)の花いとむまく、千団子(○○○)ときくもたうとしや、粽はそのまゝに見る、いとすゞしくときたるほど、飯の匂ひ又おかし、水無月の朔日は、氷餅(○○)とてやごとなき上つがたにも、もてはやし給ふに、草葉もよらるゝ、土用の比水餅の鍋鉢にうかび出たるぞ、上戸のしらぬすゞしさなりけり、風も文月の音づれして、七夕のあふ夜はみきのみ奉りて、子のこの餅(○○○○○)もまいらせぬは、葛餅(○○)のうらみながら、その鵲のはしとよみしも、やかもち(○○○○)ときけばゆかし、魂まつりも団子におくりすて、お萩(○○)の花に秋もたけてこもち、もち月の団子より、栗の子餅(○○○○)の節句も過れば、十月はもとより亥の子の餅(○○○○○)に荒初て、時雨こがらしの寒きまといに、火鉢のもとのやき餅(○○○)も、おもしろき時節なるべし、やゝ御仏事のもちい始る比、つもる粉雪ももち雪(○○○)も、あられ(○○○)も酒の名のみにはあらず、おとごの餅(○○○○○)は、朔日にいはひて、師走はなべて餅の世界なれば、あけてもいふべからず、さればよいかなれば、詩人は酒のみ友にかぞへ入れて、李杜が筆にも餅の沙汰はなけれど、両部習合の俳諧には、劉伯倫がのみぬけも、夏炉亭の餅ずきなるも、ともに俳諧の趣向なれば、我門には上戸もめでたく、下戸も猶めでたし、