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用捨箱

餅屋の看板古くより白糸餅といふあり、細くねぢりたる物にて、馬の形にはあらざれど、異名お廋馬といへり、是もしんこ馬に対しての名なるべし、 花紋曰〈享保十四年印本言石撰〉 白糸餅(やせうま)に楊枝のむちや峠茶屋 作者お闕如此かなお附たり、又信州小県郡の今の風俗お記しゝ冊子に、捏槃会の日、寺々にてしんこ餅の細き物お作り、参詣の人にあたふるお、やせうまといふといふ事あり、享保の頃もはや此物江戸にはなかりし故に、峠茶屋と句に作りしにやあらん、再雲、白糸餅お細くねぢたる物なりといひしその証、徳元独吟千句〈完永五年吟〉ねぢあひつゝも銭おやりとるしら糸お餅屋の棚に売買て続山の井〈季吟撰完文七年印本〉 餅雪お白糸にする柳かな 宗房〈芭蕉翁初名〉養生主論〈天和三年印本〉に、白糸もどきとあるも是なり、