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南畝莠言

東海平子文〈名維章称篠崎金吾〉朝野雑記に雲、上世の干菓子四品あり、其形左の如し、〈○図略〉右四品上世の干菓子なり、此外に更に無之、浜島内膳伝へて其図お蔵む、津村総左衛門予に伝ふ、菓子の菓草冠あるは訛なり、果子と書くべし、按ずるに、説文曰、果木実也、俗従草者誤とあり、果子はもと木実なれども、すべての寒具お乾菓子といふ、源順和名抄に、餛飩、〈四声字苑、餛、飩、餅、挫肉麪裹煮之、〉餲餅、〈四声字苑名剪麪、作蝎虫形俗雲餲粘、〉あり、又歓喜団の下に、一名団喜俗以梅枝、桃枝、餲団、桂心、黏臍、饆饠、〓子、団喜、謂之八種唐果子とみえたれば、餲籠、桂心、混純の三は唐より伝へ、加久縄は此方の製なるべし、今の果子に加久縄の形したるお、俗にねぢがねといふにも、古今の語の雅俗おしるべし、近世都下乾果子の製造、年々に奇巧お競ふ事甚しきにつけても、上世の質朴お思ふべし、況や上世にわたらざる砂糖といふもの、世に行はれてよりこのかた、天下の果子の味一変せるおや、