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類聚名物考
飲食二
椿餅 つばいもち つばきもち〈俗〉雪お出事、難波家記、承元二年十一月八日記雲、葉形餅与花橘菜にて雪お土器に入て、甘葛お霰地の瓶子に入、以薄様裹口被副置之、各推興争取雲々、松下拾葉書、鞠の庭にて酒ある時に、雪お硯のふたに入て、春の初なんどには取出す事もあり、一鞠場へ可出物之事、あまのりたゝみつばいもち、是は椿の葉につくりてのするもち也、雲々、胤相雲、椿餅の造法は、当時大膳職にてのは、河海抄若菜巻などに出たると少し違有之候歟、凡而造菓の法、砂糖甘葛の違めより、古法ならず相聞え候、かざり様分量等習居申候、椿の葉に木の病とて、葉化して丸く餅の如く腫るゝ物あり、是お椿餅と雲、小児とりて喰ふ、甚味甘し、京にて見たり、思ふに是より習ひて椿餅お製して、その葉に付ると思はる、此事椿のみにあらず、さつきにも躑躅餅とて出来る、葉化して丸く形餅の如し、是も喰ふにその味しぶくあましと雲、五陪子の形の如し、鞠の庭に奉る椿餅の事、一旧記に雲、干飯お粉にして丁子お粉にして、すこしくはへて甘葛にてかためて、椿の葉二枚お合せてつゝみて、上おうすやうの紙お、ほそき壱分計にきりたるにて、帯にして結びてたるゝ也、公世二位申さるゝは、近衛関白殿より尋られたりしに、作りてまいらせき、それこそやうはあれ、人是おしらずと雲、 近代の法、干飯少し煎べし、むかしは砂糖なし、今時は砂糖お入て珍重なるべし、からしもすこし加へてたるもあり、又枝に片はおつけて片葉おば、おほへるものあり、二葉三葉枝につくる事も有、あまづらの代には、氷砂糖おねりて粉おかためむす也、葉につゝむことはむして後なり、