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嬉遊笑覧
十上飲食
算木餅、塩尻に伊勢宇治辺は年礼の客来れば、先折敷にさんぎちやかとて、二寸ばかり割たる木二三枚、ばらにて結びたるお置、田作かうじなどおまじへ、これお年始の饗とし、次に芋がしら三つ椀に入て宝珠といふ、これおすえわたし、小紙一帖お以て引出物とす、家の貧富により、紙の大小多少ありといへり、〈○註略〉さんぎちやかとは、算木茶果なるべし、伊勢ばかりの風俗にはあらぬにや、花摘集、元禄三年七月十七日、算木餅お文字にかさぬる灯呂哉、〈東順〉是は其角が父の発句なり、灯籠の組子おいふなり、もと茶果も漢土に其製あり、祝允明猥談、江西俗、倹果榼作数格唯中一味、或果或菜可食、余悉充以彫木、謂之子孫果合、めづらしきやうなれど、今正月の蓬萊などの果子ども、食ふ者なきやうになりしは、算木餅もおなじかるべし、