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渡辺幸庵対話
一饅頭屋の塩瀬は、元来菊屋と雲もの也、昔は饅頭の煉汁は、小麦の甘酒にて製せし也、或時塩瀬が家来、余の菓子に蒸申餅米お、夜る取違て甘酒に作りけるお、無是非夫にて饅頭おしければ、色白く風味能出来はやり、是お外にても見習、後には方々にても、餅米の甘酒にしける、其後塩瀬が家来砂糖に塩お加へてしたてけるに、風味すぐれて塩瀬が饅頭とて、はやり出て今に断絶なし、右麁忽に入ける塩の分量お覚て、毎度加へける、此塩かげんお秘して、世に知らせずと語りける、