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貞丈雑記
六飲食
一旧記にまんぢうのすさい、むしむぎのすさいなど雲ふ事あり、古はまんぢうにても、何にてもさいおそへて出したる也、そのさいは醋にひたしたる物ゆへ、さいおすさいといふ也、醋はむねおすかす物故、すさいおそへて出す也、尺素往来に点心の菜は不要多矣、生籮蔔(だいこん)、鶏冠苔(とさかのり)、冬瓜、藕根(はすのね)、蘘荷、酸蕗等の内、三種計可設之、菜与点心匹数事は、号元弘様、当世の物笑也と雲々、点心とはまんぢうもち、むしむぎなどの類おすべて雲也、そのすさいになる、大こん、とさかのりとうぐは、はすの根、みやうが、ふきなどに醋おかけて出すお雲也、菜お点心ほどに多くもりて出すおば、元弘年中の風儀とてわらひ物にしたる也、三種計少出すべしと也、一又まんぢうの粉切物(こきり)といふ事あり、ことはまんぢうくふ時汁へ入る紛也、山椒のこ、肉桂の粉こしやうのこなどの類也、からしなども粉なり、きり物とは是も汁へ入るきざみ物也、柚の皮、みかんの皮、しその葉、たでの葉、みやうがの子などの類お、こまかに切りたる物故、きり物と雲也、昔はまんぢうに、たれみその汁お添て出したる也、さうめん、むし麦、やうかんの類にも、汁おそゆる也、粉、きり物もあり、又すり物と雲も、粉之事、すりてこにするなり、