[p.0686]
古事記伝

八塩折之酒(やしほおりのさけ)、書紀に八醞酒と書り、醞は醸酒也とも久醸也とも、字書に注せり、又和名抄に、説文雲、酎三重醸酒也、〈漢語抄雲、豆久利加倍世流佐介、〉西京雑記雲、正旦作酒、八月成、名曰酎酒、一名九醞とあり、さて此お夜志本袁理と雲所由は私記に、或説、一度醸熟、絞取其汁棄其糟、更用其酒為汁、亦更醸之、如此八度、是為純酷之酒也、〈○中略〉と雲り、此説大かに宜しかるべし、八度折返とは、古何事にまれ回復て物するお、折と雲るにや、物語文に折返し歌ふなどあり、〈○註略〉又酒折池酒折宮など雲もあるお思へば、折は酒お造るに殊に雲言なるべし、さて新撰字鏡に、〓志保留とあり、〈〓は、膿俗字と見ゆ、さて膿は、説文に厚酒也と注せり、〉此に依らば、厚酒お造るお志保留とは雲るにや、志保留は即志保袁留の切まりたる言にて、幾度も折返し醸意なるべし、〈さて物お絞ると雲も、此より出たること、又物色お染る度数お、一しほ二しほと雲も、本同意にて、其は理お略る言ならむ、〉さて志本とは、〈酒お造るにも物お染るにも〉其汁お雲名にやあらむ、