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鷹山公偉蹟録
十二
醴酒御断りの事文化十一年、作毛不熟に付、酒造停め玉へり、然るに公〈○上杉治憲〉は酒お嗜ませられざりければ、例年寒気の節、御腹養の為にとて、醴酒少々聞召しける、酒禁の節に当て、上たる者親く行つて示さでは、下お率ひ服すべき様なし、醴酒たりとも造るべからずと被仰出、斉定公聞かせられ、御老年の御身かばかりの事まで見せ玉ふには及ばせられまじ、薬用酒と雲へば、誰人にても許し与る事なり、御養生の為なる醴酒造らせ玉ふこと、何条障りの候べき、何とぞ造らせ玉べしと再三強て勧め玉へども、猶許し玉はざりしお、御使お以て糯米と糀とお進らせられ、願はせ玉ひければ、公も其御考心に感じ、稍く其言に従はせ玉ひしが、猶例年の半にも足らぬほど造らせ玉ひけり〈仰止録〉