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成形図説
十一農事
酒食古の神酒製る法は、吾沖縄島にぞ遺りけらし、かの土音に神御気と称へり、こは神の御気もて成れりと雲の古語に由れり、其法十三四より十五歳までの女子の、端正なるお択て斎せしめ、甘蔗して歯お磨き、清水して口お洗ひ、粢(しとき)お嚼しめて、醞醸(つくりもろみ)の中に投れば、一宿お経て成れり、其味甚甘美、酒色潔白なり、凡御気一升お造には、糯大上白米一升〈搗粉なり〉麦芽(ばこきの)粉五合、焼水八合、美水二合、絹篩にてとほし、煉調たるに、始糯白米一升の中より一合許お分取置煉ず、生粉のまゝなるお嚼投也、此通証所謂古者〓咀作酒、大隅風土記所載の口嚼酒、及武内宿禰の歌に、此神酒お嚼けむ人と見えたる者なるべし、〈凡其女子の口気に由て、御気の味或は甘く或は辛し、之お甘口辛口と雲、今も酒味お雲には、亦此より出たり、明世法録雲、琉球国以水漬米越宿、婦人嚼以取汁曰米奇、米奇即御気なり、〉さて此御気お造て、毎年四月頃稲穂将に熟とする時、一間切つゝ神舞と雲おなして、神祇お祀り、歳の豊祭お祈る、名て神事と雲、其式祝巫白浄衣お披頭に〓(はちまき)し、裏白(うらしろ)お挿し手に茅お執て、社頭にて歌ひ舞へり、此時挙国悉く斎戒し、服忌経行等の者は戸外に別火し、神事に関ることお得ず、若犯す者は必羽生に傷らる、土俗呼びて神の使と雲、而この御気は国世主(かなし)に献り、又諸臣庶に頒賜の例あり、