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童蒙酒造記

酒言葉之事、一室の床食颯乱離と成お、択食(つはる)といふ、一蓋に盛て三け一葩煎(はぜ)るお、足といふ、一糵(もやし)とは、麹の花の事也、一本元とは六斗、半元とは三斗也、一元味付とは、旨(うまく)出来る事也、一〓むるとは、半切nan壺台に移す事、一温(ぬく)めとは、懐湯(だきゆ)入る事、一ほうろく泡とは、鏡の見ゆる大き成泡の事、一鬼灯(ほうつき)泡とは、鬼灯程にて鏡見ゆる泡の事、一蟹泡とは、右左々々と細か成泡の事、一雪泡とは、雪の降積りたるごとく高泡の事一泡掛とは、温め引て後泡の様にて掛る事、一下り掛け、同泡の下りお見て掛る也、一半枯しとは、同泡上りて後日数四日めに掛る事、一枯しとは、同泡上りて後日数七日に掛る事、一大枯しとは、同泡上りて後日数七日以上、或は十日十五日、自然は二十日二十四日三十日までもにて掛るお雲也、一元起(おこし)とは、添掛る事、一飛とは、添と中分け間一日置事也、一中分けとは、添の次に掛る事、一掛留とは、中分の次三つめの掛仕廻事、一初櫂とは、飛日初に掻く事、一掛塩の櫂とは、中分掛留共に、掛前に掻櫂の事也、同櫂お早く入るお落し掛といふ、同櫂お遅く入るお競掛といふ也、一向ふ櫂とは、今日掛たる時に明日荒櫂入る事、一荒櫂とは、造り仕廻て始て入る櫂の事、一押ゆるとは、向ふ櫂より延て掻事、一遮(さへぎ)り櫂とは、向ふ櫂nan早く掻く事、一下りとは、醅(もろみ)岸離れて下る事、一延すとは、水多く汲事、一詰るとは、水少き事、一斗水とは、掛米壱斗に水壱斗の事、一当りとは、仮令ば七斗水に造る酒ならば、中分けにて七斗汲お当りといふ、一算用とは、元水より添中分け段々の水お仕廻にて、算用して汲事也、一分るとは、醅お汲分ける事、一時飛とは、今日の掛時より明日の掛時延る事、一当日漬けとは、朝米洗ひて晩に蒸事、是は新酒に用ゆる事也、一二日漬けとは、今日米洗ひて明日蒸事、一三日漬けとは、今日米洗ひて明後日蒸事、一摝(さがす)とは、食醒す事、一持籠とは、釜nan直に食お入る事、一荒息抜とは、筵に開拡手返して息抜て入る事、或は二三篇或五六篇、息抜とは、或は二三枚或は五六枚取る間手返し醒す事也、或は人肌とは膚の温み程の事也、或はちと気お持するとは、少し計温み有かといふ程の事也、或は醒切とは、一時にても二時にても、寒さ程醒す事也、一打とは、渡しへ酒お入る事也、一突釃とは、笊籬(いかき)にて醅お釃事也、一〓(なかくみ)とは、揚前延たる醅の中の、清たる所お汲とる事也、一酒の蓋とは、醅の上の泡黒く成て、蓋の如くなる事なり、一酒の足とは、酒の性の事なり、一生酒とは、火不入酒の事なり、一煮込とは、煮て直に樽詰にする事、一煮香(にか)立とは、火入お乞風味色程替る事一薄火入とは、手引より前に火入る事、一大体火入とは、手引の事也、一熱火とは、手引nan強く入る事也、一火香とは、火入て後火の匂ひする事、一花降とは、清酒に霰のごとくの、白き物出来る事也、是お病といふ、一泥(おり)とは、火前に火入共に桶底に留る所の、濁りて弱き酒也、一尻口強しとは、繽酒(ひんしやん)として辛口の事也、一尻口弱しとは、為浸(ひつたり)として甘き事也、