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譚海

酒お造る桶は皆杉なり(○○○○○○○○○○)、古木お用るほど酒よく出来るなり、名酒お造る桶は、五六百年に及ぶ杉にて造たる桶なるよし、先年飛騨山中に大なる杉あり、根のうつろに成たる内へ、三人入て手おひろげつらなりたるに、猶左右に余地あり、大坂の者此杉お弐千両に直段付たれども、所の者此杉は産砂のごとく、何百年ともなくあがめ来るゆへ、売渡す相談に及ずといへれば弐千五百両迄直段にのぼせたれ共、終に売事おせであり、大坂の者申けるは、此杉およそ千年余の物と見へたり、此杉おもて酒樽お造りなば、おそらくは池田伊丹に此酒より勝たる物出来る事あるまじ、桶にせは廿七八本は出来べし、その価はかりなき事といへるとぞ、