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松の落葉

酒のむさほふ三度三献の事ひと杯の酒のむお一度といひ、三度のむお一献といひき、なみいたる座にてさかづきお一たびめぐらしのむおば一巡といへり、さてものゝ儀式に、うるはしくのむは三度と三献とにぞありける、西宮記一の巻に、薬子嘗之、次供御第三度と見え、大鏡六の巻に、御加茂詣の日は、社頭にて三度の御かはらけ、空にてまいらするわざなるお、その御時には禰宜神主も心えて、大かはらけおぞまいらせしに雲々とあるなどお見れば、三度は酒のむさほふになん、西宮記一の巻、臣下大饗のくだりには、三献間客人不動座、四献以後諸卿起座献盃と見えて、三献もうるはしく酒のむさほふにぞありける、又同記五の巻、定考のくだりに、三献後居粉熟飯、数巡後居餅啖と見え、北山抄一の巻、二宮大饗のくだりには、三献後有音楽、数巡之後雲々とあるおみれば、三献うるはしくのみおはりてのち、度々さかづきめぐらすこともありしなり、されどこれも大かたのさだまりはありとしられつ、北山抄に、節会酒巡不過七許巡、而今日及十一巡、王公唱歌擊笏、公宴酒興延長雲雲と見えたり、酒といふもののめばうれひおわすれ、くすりとなるおはじめとして、まじらひのむすびにもよろしく、何くれとよきことおほかるものなれど、えひすぎてはあやまちもしいで、身の病ともなれば、三度三献とかぎりたるさほうありしはうべなりけり、酒のみかは、すべてよしとおもふことも、すぎてはあしきことゝなるぞおほかる、胡盧山といへるから人の、酒飲微酔、花看半開といひしは、げにさることぞかし、