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三愛記
此ごろ世にひとりの居士あり、儒釈道によらず、其形自然にして、九重の中に年お送りしが、ちかきころほひ、つのくにいなのゝわたりにいほりおむすびて夢と号し、みずから牡丹花おなとせり、みにおはぬやうにきこえ侍れど、万物一体のことはりおおもふにや、つねのことぐさに、はなおもてあそび、香お執し、さけおあいす、〈○中略〉さけはもろこし南蛮はあぢはひおこゝろみ、九州のねりぬき、加州の菊花、天野の出群なるおもとめ、薄と濁醪にいたるまで、一酌に千憂お散じ、あるひは春衣おおきぬひて酔おつくし、これお以て風寒おさけて、希なる齢にもこえたり、〈○下略〉