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二老略伝
雪山先生〈○北村〉在江戸の間は、潔病甚しく万の物お洗ひきよめたるに、長崎にかへりて後、十六年の間沐浴せず、爪きらず、半風子身にあまりたり、猶産お破りたるゆえ、至て貧窮なり、然といへども崎人尊敬して、名いふ人なし、先生とのみ人々称したり、酒価なき時は写字おなして酒家につかはす、文字の数は、字幅の格好に随て酒おおくりたり、雪山先生の書は、唐船に価お貴くゆえに、酒家に利有りしとなり、唐にても雪山先生の書お褒称したり、