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物類品隲

食塩 和名しほ、塩の品類多し、海塩、井塩、鹸塩、池塩、崖塩、石塩、木塩等、食用に充べきよし、皆食塩なり、印塩は獣等の形お作りたるお雲、本邦花塩の類のごとし、飴塩は飴お拌まぜたるものなり、本邦所々より出るものは、皆末塩なり、はな塩やき塩の外は製作もなし、塩井等もあれども、日本は四方海に近き国ゆえ、製するもの希なり、紅毛人持来るものは種類多し、紅毛語塩おそうとヽ雲、らてん語にてさると雲、崖塩 一名生塩、東璧崖塩お食塩とし、又光明塩の一種とす、今按ずるに、其説相戻れるに似て、却て説得たり、崖塩は食塩なり、其中明瑩なるは光明塩なり、蛮産紅毛人持来る、雲山崖の間に生ずと、其形白礬のごとく黯色なり、下野塩谷郡塩産形枯礬のごとし、自然白塩、和名おらんだじほ、呉録曰、婆斯出自然白塩、如細石子と、綱目光明塩集解中に見えたり、今按ずるに、是亦食塩なり、故に此に出す、近世紅毛人持来るに因て、おらんだじほと雲、形方稜累累として相重、屋形のごとし、味鹹甘能胸隔お開く、蛮産上品、讚岐山田郡潟本産、蛮産と異なることなし、方言じねんじほ、又てんとうじほと雲、亭戸炉地(しほまき)に海水おそヽぎ、日に晒すこと数次、霜お生ずるお待て刮取、海水お以て淋滲したるお、名てたれしほと雲、是お池中に貯置ば、其底自然に凝結したるものなり、讚岐小島豆土荘産上のものに同じ、戎塩、蛮国に産す、故に胡塩羌塩等の名あり、凡そ中華に産せずして、蛮国より来る塩は、皆戎塩なり、然ども古方戎塩と称して薬用とするは、青赤の二種のみ、青塩、形色頗る南蓬砂のごとく青黒色なり、赤塩、一名紅塩、一名桃花塩、形礬石のごとくにして微紅色なり、以上二種紅毛人持来る、光明塩、和名はるしやしほ、本唐本草に出たり、是即食塩中の一種、顆塊明徹なるもの而已、猶礬石中之明礬、東璧山産水産の二種お分別す、其説精に似て却て煩雑なり、蛮産上品、大塊にして形方解石のごとく、色白して光徹なること、水精のごとし、壬午客品中長崎紅毛通事吉雄幸左衛門具之、