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播州名所巡覧図会
五赤穂郡
赤穂塩 同製 塩浜の地面広さ一町より七八反に至る、是お一軒前といふ、一畝の間に塩水おたるゝ穴一つづヽ有て、一軒前にすべて百穴也、其穴の上に砂お入るる所お築く、大きさ半間四方許、上下筵お敷て是に潮お沃ぎ入れば、おのづから沙お越して垂壺に溜る也、潮お取には、大昔は藻塩たく、藻しほかき集むなど歌にもよみて、藻おかきあつめて、それに入たる潮お焼たるなり、中世にてはこれおやめて、砂の上へ潮おまきて日に干たり、夫も又変りて今の法甚便也、かの塩浜の四方に渠お穿て、夫へ海より潮お引入て、常に湛あるに、又其広き間には幾筋も地面の中溝お堀りて、四方の潮お通し引き、地面の底よりおのづから潮水入上りたるお、日に晒してかきあつめ、かの垂壺の上へ塩砂おうつし、其上へ潮水お汲みて沃ぎかけて、かの沙の塩おあらひ落すの心也、かく垂たる砂お、又晩方に成りて取出し、地面へ撒き、把お以てかきならし、柄お以ておし付け、一夜お経れば同じく炉気(しほけ)、此砂に吸上げたるお、昼過るまでよく日にさらせば、炉気いよ〳〵上に浮也、これおあつめてたるゝ事、前にいふがごとし、毎日かくのごとし、垂るゝ所の一穴の潮、毎日一斗五升にて、百穴十五石也、一釜に煮る所、一石二斗にして、一昼夜の間に、百穴の潮お十五六釜に煮尽せり、但し夏七月の間は潮多くして、二日一夜に煮る也、塩は水一升お煮て五合お得る也、一釜に得る所六斗、昼夜に十石許なるべし、釜は小石お石灰にて堅めたるもの也、其大きさ一間に二間計の角にて深さ三寸許なり、竈は其広さ一はいに築あげ、焚口挟く明たり、先此釜お制るには、釜の大さの板おへついの上に置き、其上に河石二寸許なる薄きお並べ、土お粘し搗煉したる藁と、松葉の灰とお和して塗堅め、又其釜の底へかけて、鉄の釣手お六所かけ置き、其釣手ともに灰にて堅むる也、かくて上より火お焚き乾かし、よき程に候ひて下の柱お抜取、又下よりも焚き乾かす、是すべて火の加減大事也とす、釜用ゆる日数凡そ廿日許にして、崩して又新に作る、焚事昼夜絶ず、塩お煮て釜底に残りたるお、にがりといふ、冷して煮る中へ加ふれば塩甚鹹し、是お差塩といふ、魚肉の塩によし、又温かなるお加ふれば味和かなり、西浜是お制す、古浜といひて上品なり、味噌醤油によし、東浜は俵に五斗お納るは、是お江戸俵といふ、西浜は一斗二三升にて小俵也、