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伊勢物語

むかし左のおほいまうち君、〈○源融〉いまそかりけり、かも川の辺に、六条わたりに家おいと面白く作りて住給ひけり、神無月のつごもりがたに、菊の花うつろひさかり成に、紅葉のちくさに見ゆるおり、みこたちおはしまさせて、夜一よ酒のみしあそびて、夜明もて行ほどに、此殿のおもしろきお、ほむる歌よむ、そこに立けるかたいおきな、板敷のしたにはいありきて、人にみなよませはてゝ読る、 塩がまにいつかきにけん朝なぎにつりする舟は援によらなん、と読けるは、みちの国にいきたりけるに、あやしく面白き所々おほかりけり、わがみかど六十よこくの中に、塩がまといふ所に、にたる所なかりけり、さればなんかの翁さらに援おめでゝ、塩がまにつきにけんと読りける、