[p.0856]
三省録
後編二飲食
酒井讃岐守忠勝君御側に被召仕し、福島雲南といふ小坊主は、御厩中間小頭の子なりしが、毎度今朝の飯の菜は何なるぞと尋給ふ、折節は彼が手の内に鰹節幾節、または何程と御自筆にかゝせられ、是お証拠として、台所役人に貰候へと仰られしことありしとなり、或時今朝は何ぞ菜ありたるかと尋給へば、豆腐お味噌にて煮て給候と申せば、女が親の身上にて、大豆の味噌は持まじ、糠味噌にてあるべしと宣へば、いや御馬の大豆の内お取、いつとても大豆の味噌おこしらへ候と申上ければ、大に笑はせ給ひ、馬の大豆にて味噌お拵ゆるとも、少しづゝとるべし、多く取て馬お痩させなと、親に申べしと仰けるとなり、