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嬉遊笑覧
十上飲食
金山寺みそは、紀州若山金山寺の名物にて、江戸に流行出しは、享保年中よりとなむ、他州にはなし、東坡金山贈宝覚長老詩、誰能斗酒博西凉、但愛斎厨法厨香、また寄園寄所寄に、天下第一者、金山寺塩豉と雲、博物類纂〈十二〉諸州名産お挙たる内にも、江陰県河豚、金山寺鹹豉雲々といひて、皆為天下第一、他処雖効之終不及、また乾道庚寅奉事録、〈宋周必大〉鎮江府金山竜遊寺に至りし処に、会飯於方丈、白糸糕、黒鹹豉、糖豆粥、三者山中之精饌也雲々、今こゝの金山寺みそ赤黄にして黒からず、其製異なるべし、其方は居家必用などにも出たり、又日本歳時記六月条に、和州達磨寺の秘方とて載たり、江戸名物径山寺味噌、麻の実の音面白し四十雀といふ句あれば、種々の物お入しと見ゆ、♯長崎歳時記、正月四日の条、古へより延命寺の僧徒、金山寺味噌といふお、曲物につめて檀家へ配る、其製唐土の金山寺より伝へたるよし、家々これお得て珍味とす、